最近の金融経済の動向
講師 日本銀行静岡支店長 水野 裕央 氏
【講演概要】
静岡県経済の現状をみてみよう。コロナ禍後、催しなどが盛況で
外出も増加したことで、それに伴う個人消費に反映されている。自
動車販売も半導体調達改善から回復傾向だが、年末に発覚した不正
問題を考慮し今後は慎重に見る必要がある。観光分野も回復はして
いるがインバウンドの恩恵は全国ほど受けていないことが課題。人
手不足により客室制限するなど、需要の取りこぼしがあるとみられ
る。企業の設備投資はカーボンニュートラルへの事業拡大などが前
向きで、製造業を中心に増加傾向にある。
企業の生産活動を見ると物価高による消費者の節約志向や、人手
不足の影響はあるもののEV化や医療向けが顕著に推移。加えて自
動車部品の持ち直しから全体的に幾分回復とみている。しかし企業
の人手不足感が強まっていることや、仕入れ価格の上昇分を販売へ
と価格転嫁できず収益の圧迫要素になっている実態が見えてくる。
こうした中、静岡県経済の課題をいかに解決するか。ここ数年、
感染症や世界各国の覇権争い、ロシアのウクライナ侵攻などの影響
から、誰もが地域経済を巡る環境変化をスピードアップさせる重要
性を強く感じたと思う。デジタル化や働き方の急速な変化を経験し、
インバウンド依存のリスクを理解したことから、独自の高付加価値
化やEコマースへの転換が進んだ。日本経済の主力である自動車産
業でさえも変革を余儀なくされている状況にある今、構造的課題へ
の挑戦が最も重要になっている。
人手不足解決のためには、外国人労働者との共生社会を目指すの
もひとつ。それには日本の魅力を活かし、日本語教育施設を確保す
るなど環境整備も必要だろう。またM&Aによる人材確保やシステ
ムエンジニアなどの専門家を副業人材として活用することも考えら
れる。
バブル崩壊以来続いている低賃金構造の変革には、いかに労働生
産性を高めるかがポイント。当地では宇宙や量子分野、デジタル分
野の開拓が目覚ましい。脱炭素化の流れから再生可能エネルギーも
活発化、感染症の影響から農業観光やオンライン販売なども進んだ。
最近ではレストランでの配膳ロボットなども見られるようになり自
動化省力化への投資も見られる。市場・販路拡大においては、イン
ドやインドネシアなど今後の拡大市場を見据え、農産物など海外市
場への強化も考えられる。
雇用に関しては従業員が会社を選ぶ時代となり、必要な人材を確
保できないことが経営リスクと認識されるようになった。人材への
投資と稼ぐ力向上の経営戦略は不可欠。新たなテクノロジーで新市
場を開拓するスタートアップによって積極的な経済になることを期
待している。もちろん構造的課題解決のためには「産・官・学・金」
が一体となることが重要。これまで以上に各機関が問題解決に注力
し大切な人材を育てていく必要がある。
また持続的な日本経済の持続を実現するには家計も重要。株式や
投信に関する無料の動画講座などもあるのでお金の知恵を学び活か
してほしい。
2024年2月28日(水)21 世紀倶楽部月例セミナー
2024年の政局展望
講師 共同通信社編集委員兼論説委員 久江 雅彦 氏
【講演概要】
裏金問題や予算審議の大詰めの今、岸田総理は9月の自民党総裁
選での再選を確実に狙っているのは間違いない。現在自民党支持率
は極めて低いが、あわよくば6月通常国会会期末で解散ができるほ
ど支持率を上げ、最後の勝負をかけたいと考えているはずだ。その
とき注目されるのが定額減税。賃上げやデフレ戦略としての経済政
策を岸田政権は売り物にしたい。さらに、3月韓国、4月バイデン
との首脳会談、5月ブラジルと予定されている外交効果で支持率ア
ップを描いているだろう。したがって3月4月の世論調査で支持率
が上がるかどうかが6月解散の指標になる。解散できなければ、総
裁選に出馬しないまま退陣することになるだろう。
これまでの世論調査を分析すると、岸田政権は一昨年8月まで高
い支持率だった。しかし安倍氏の国葬を焦って決定したことや、そ
の後の統一教会問題で急降下。昨年1月には一度上がり始めたもの
の、長男の公邸内での忘年会騒ぎやマイナンバーカードの滞りで再
び低下し現在に至る。「内閣支持率と自民党支持率を合わせ、50
%を割ると赤信号」という青木の法則(内閣官房長官を務めた青木
幹雄が提唱したとされる内閣の安定度を示す経験則)に照らし合わせ
ると、いつ辞めてもおかしくない状況。4月28日の衆議院補欠選
挙(東京15区・島根1区・長崎3区)で負ければ、自民党の大激震
は必須。すると、党内キングメーカーである菅氏と麻生氏の二人が
鍵を握り、ポスト岸田の動きが本格化してくるだろう。
次の総理が誰かは誰も分からない。世論の支持を見ると、支持率
一位は石破氏、二位が小泉氏、三位に最近急浮上の上川氏の名前は
挙がるが、石破氏も自民党内の基盤は弱い。一般と党内での支持が
重なる人ほどポスト岸田になる可能性は高いが、現在両者は整合し
ていないのだ。
裏金問題で政治倫理審査会に総理が出席することになったのも、
与野党駆け引きではなく安倍派との攻防が本質だろう。3月中旬まで
に自民党の処分が決まり、その後は政治資金規正法の改正によって
前向きな話に方向転換していくと思う。
自分は政治部で30年政治家を見てきた。つくづく思うのは政治
家とは「人間を操縦できる人」であること。学力や政治偏差値の高
さ、ディベートで勝つことより、さまざまな人間を束ね多数派を創
り上げることが重要だ。田中角栄、小泉純一郎、安倍晋三など長期
にわたり総理を務めた人は人を使う能力が高い。
自民党は純然たる組織政党ではない。地域の代表と業界団体の掛
け合わせだから強い。そして個人の集まりだから派閥ができるのも
当然といえる。選挙制度改革ができ30年になるが、小選挙区制と
国民の支持分布との乖離を解決することが今後の大きな政治課題だ
と思う。