天竜浜名湖鉄道・今、そしてこれから
講師 天竜浜名湖鉄道株式会社 代表取締役社長 松井宜正 氏
【講演概要】
天竜浜名湖鉄道は、掛川駅から湖西市の新所原駅まで、6つの市町を結ぶ第三セクター鉄道。旧国鉄の二俣線として1940年に全線開通し、今年85周年。当初は戦争で東海道線が攻撃された場合の迂回路という軍事目的を併せもって作られた。戦後も材木などを輸送していたがモータリゼーションによって需要が減り、国鉄は1984年に廃止を決断。そこで、県と沿線の6つの市町が主な株主となり天竜浜名湖鉄道株式会社が誕生。1987年に開業し、今年38年目。
天浜線の今。その1「魅せる」。2009年に一般向けの転車台見学ツアーを開始。2011年に駅などの施設31件が新たに登録有形文化財に指定され、現在、指定施設は36施設。2016年には台湾鉄路管理局の集集線と交流協定を締結。2024年には台北メトロと遠州鉄道との3社で友好協定を結んだ。その2「彩る」。2018年から浜松いわた信用金庫、はままつフラワーパークとの3社で、天浜線沿線に花を植えておもてなしの心を伝える「花のリレー・プロジェクト」を始めた。2021年からはガーデン&プロダクトデザイナーの吉谷桂子さんデザインによる「花のリレー号」も運行。それらが実を結び、2023年には全国花のまちづくりコンクールで大賞(国土交通大臣賞)を受賞。昨年は国交省のアメイジングガーデン浜名湖の登録施設となる。現在、植栽地20ヶ所、アダプト団体138団体、参加者は延べ1万4000名となっている。
コロナ禍の中で天浜線を支えてくださったもの。まずは地域の企業や住民の皆様のご支援。駅に愛称をつける副駅名ネーミングライツを募集したところ、39駅中14駅で実現。ラッピング列車も、稼働車両14両中11両で実施。そして、アニメ、映画、テレビのモデル地、ロケ地になったことも大きい。「劇場版シン・エヴァンゲリオン」や「ゆるキャン△」のファンの方が聖地巡礼で来てくれる。またAKB48のテレビ番組とのコラボ企画も大きな効果があった。
天浜線の使命の第1は、安全で安定した運行。通学の時間帯は押し込めの人員が必要なほど混んでおり、地域の足を担っている。使命2は利益の確保。第三セクターといえど可能な限り努力する。使命3は沿線地域の観光振興等への貢献。花のリレー・プロジェクト第2章として、弊社と浜松・浜名湖ツーリズムビューロー、浜松学院大学、浜松いわた信用金庫の産官学金4団体による観光プロジェクト研究会が発足。多彩な旅行企画商品を販売し、誘客している。
今後の戦略として、世の中が便利で快適な未来社会(Society5.0社会)へ向かう中で、逆に天浜線のレトロ感、アナログ感が強みになるのではないか。そこで、アニメ、映画などを誘致し、コンテンツツーリズムを推進。エヴァンゲリオン30周年のほか、ロケ地となった映画「おいしくて泣くとき」も現在公開中。さらに観光需要にも注力し、着地型旅行商品の造成やインバウンド営業を強化。加えて、新分野事業を構築し、経営の安定化を図っていきたい。
天浜線は戦前の軍事路線から、戦後は人や物資の輸送を担う生活路線になり、2021年には平和の祭典である東京オリンピックの聖火も輸送して平和路線としての役割も果たした。これからも、地域と人を結ぶ郷土愛に満ちた愛情路線として、地域社会の発展に貢献したい。
2025年5月29日(木)21世紀倶楽部月例セミナー
新事業創出〜パラアスリートが使う軽量車いす開発の裏側〜
講師 橋本エンジニアリング株式会社 代表取締役社長 橋本裕司 氏
【講演概要】
当社は世界最軽量車いすを作っている。汎用の3分の1の6.2kgという軽さで、グッドデザイン賞も受賞。この技術をもとにパラスポーツ用の車いすを開発し、現在、車いすテニスの田中愛美選手はじめ4名の選手と契約。2024年のパリ・パラリンピックでは全員が金メダルを獲得し、注目を集めた。昨年は浜松市スポーツ特別サポート賞を受賞。経済産業省のはばたく中小企業300社に認定。浜松の町工場がなぜこのような製品を作り出すことができたのか?
現在は5つの事業を展開する多角化経営だが、2009年までは車、バイクの仕事のみ。転機はリーマンショック。リストラに協力してくれたスタッフを必ず呼び戻すことを誓って、「縁ある人を物心共に幸せに導く」という目的、「雇用を守り、20年後30年後も生き抜く」という目標を掲げ、前進した。日本の輸送機器製造業の状況は、EVショック、産業の空洞化、ピラミッド産業構造の崩壊、人口の減少、第四次産業革命による「不確実性の時代」。そこで生き抜くために、「少ない売り上げでも利益を生み出すしくみづくり」「高付加価値製品への技術開発」「海外進出」「新興国需要獲得」「ブランディング戦略」という5つの目標を立てた。
目標の2番目の「高付加価値製品への技術開発~新素材への取り組み―EV時代の先駆け」について。電気自動車に必要な車体の軽量化は、素材が決め手。そこで「はままつ地域新素材事業化研究会」に参加して勉強。チタン事業化研究会で医療機器を開発するメディカルプロジェクトを組織。4社による医療機器開発製造組合HAMINGを立ち上げた。そして5番目の「ブランディング戦略。100%下請けからの脱出、メーカーになる!」について。若手社員による開発チームを発足し、専門家に開発顧問を依頼。0から1を生み出すのは難しいが、1を1.1にすれば発明。0.1を探せばいいと言われ、車いす業界の「軽量+スタイリッシュ+適正価格」に市場ニーズを発見。実用金属で最も軽いマグネシウム合金を使った車いすを作ろうとしたが、1社では苦戦。はままつ地域新素材事業化研究会にマグネシウム事業化研究会が発足したので、参加。協力メーカー11社、浜松市の補助金、コーディネーターのサポート、官学の支援を得て、ついに世界最軽量の車いすが完成した。すると、田中愛美選手から自分専用車両の開発依頼が来た。再びプロジェクトチームを組み、3年かけて競技用車いす完成。4名の契約選手が金メダルという快挙で、世界一の車いすメーカーとしてメディアにも大きく取り上げられた。
その後、コロナショック、さらにトランプショック。そのような状況で、「なぜ新事業を起こせるのか?」と聞かれることが多い。その理由は、①目的、目標が明確である。なぜ新事業を新規開発する必要があるのかが、ぶれない。②行動する。チャンスは自ら掴みに行く。③成長産業への挑戦。常に市場の動向をチェック。④人の力を借りる。自分一人だけ、一社だけで不可能なことが、他の人の力を借りることによって可能になる。⑤補助金を最大限活用する。
製造業の未来を切り拓くキーワードは「生成AI×DX」であると考え、力を入れている。今後も、豊かな社会づくり、豊かな浜松づくりに貢献していきたい。