「トランプ2.0時代」の日本と世界
講師 共同通信社編集委員 太田昌克 氏
【講演概要】
去年は世界人口の4割以上の国で国政レベルの選挙が行われた、稀に見る選挙イヤーだった。その結果、フランスではマクロン大統領の与党が大敗、イギリスは14年ぶりの政権交代。さらに日本もアメリカも、オセロを裏返すように政権交代が起き、現職受難の年だった。一方ロシアでは、プーチン大統領が5期目をかけた選挙で史上最高の87.33%の得票率となり、自分の政策、そして侵略戦争の正当性を国内に誇示した。しかし、東京の在外投票ではプーチンと書いた人は半分程度だったとの情報も耳にした。得票率はこの数字に遥か届かなかったと聞いている。多様な情報によって有権者が賢い選択をすることを示唆している。メディアの職責は重いと改めて思う。
アメリカ大統領選挙では、精彩を欠くも辞める気配の無かったバイデン氏に民主党の大重鎮であるペロシ氏が引導を渡してやっと撤退。メディアは接戦を当初、予想したが選挙は開票から1~2日で実質終了。旧知の民主党有力者よると敗因は「コロナ明けのインフレ、移民急増、犯罪多発への国民の不満と怒り、民意をトランプ陣営がうまく読み取りSNSを利用して浸透」「ハリス氏はわずか4ヶ月弱の選挙戦でバイデン氏との差別化を図る現状打破の政策を磨けなかった」から、とのこと。選挙前、7月13日の銃撃事件は衝撃だったが、テロ専門家によるとこの手の事件がもっと早く起きなかったことが驚きだったという。アメリカでは政治信条による分断、憎悪がそれほど増大している。
「トランプ2.0」で心配されるのはインフレ再燃。理由は移民の大量追放による人手不足、関税強化による小売価格の上昇、大型減税継続による需要の増大。日米の金利差が縮まらないので円安が続く。就任1週間でパナマ運河の返還要求、メキシコ湾を「アメリカ湾」に、パリ協定離脱などいろいろやっている。世界各地での国際開発局(USAID)の援助も大幅カット。トランプ政権1期目の大統領補佐官を務めたボルトン氏は関税が最も心配だと指摘、実はトランプ氏は全く関税の理屈をわかっていないと取材に語った。日本も気をつけた方がいいと言われたが、それは現実となりつつある。
石破総理とトランプ氏の初の首脳会談では、共同文書を作るのに外交バトルがあったようで、トランプ政権は「ルール」、「国際法」、「法の秩序」、「自由で公正な貿易」という言葉を受け入れなかった。トランプ氏は力を信仰し、力で相手をねじ伏せる外交を展開している。日米関係は前途多難だ。さらに石破氏は今後も内政のハードルが多く、巳年の2025年は12年に1度の参院選と都議選が同時に行われる年でもある。可能性は高くないが、内閣不信任案が成立したら都議選、参院選に加え、衆院選のトリプル選挙になるかもしれない。
「燈燈無尽」という言葉を紹介したい。政治家、ジャーナリストは社会の一隅を照らす1本のろうそくでなくてはいけない。これが政(まつりごと)の要諦。その灯りが次のろうそくを灯し、無限のものにならなくてはならない。市民も政治貢献を。
最後に、昨年話題になった映画「オッペンハイマー」の原作者である歴史家マーティン・シャーウィン氏の言葉。「歴史は、それがそのように生じる定めにあったから生じたのではなく、権力ある地位にある個人が特定の選択肢を選んだから、そのように生じたのである」。歴史がどう進むかは全て人間の判断。しかもそれは、権力を持って人々の暮らしに影響を与える人の判断である。いかに政治が大事か。私たちは決して無関心ではいられないはずだ。
2025年3月27日(木)21世紀倶楽部月例セミナー
魅力的な湖西市をこどもたちへ
講師 湖西市長 田内 浩之 氏
【講演概要】
東京都中野区生まれ、47歳。幼少期は重度の小児喘息で小4までほとんど病
院の酸素テントですごした。中学入学と同時に父の故郷の湖西市に移り、鷲津
中学校に転校。体が元気になってからは、小学校時代に空手を始めた。中2の
とき近所に空手道場ができたので入門。ここの師匠から多くの大事なことを学
んだ。ちなみに空手は今もこの道場で毎週こどもたちに指導をしている。浜松
南高に進学後は空手を生かして大学進学を目指したが、ケガで挫折。恩師に励
まされて勉強に取り組み、立教大学に入学し、卒業後は遠州鉄道株式会社に入
社。約10年保険事業本部で営業を担当した。遠州鉄道は素晴らしい会社だった
が、体が弱かった自分が社会のおかげで命が助かったという思いがずっとあっ
たので、直接的に困っている方のために働きたいと考えていた。そして、父の
看病のために介護休暇をもらって母と交替でホスピスに通っているときに、政
治家になろうと決意した。平成23年、41票差という全国一の僅差で静岡県議会
議員に初当選。4期を務めた後、昨年の湖西市長選挙で当選し、12月に市長に就任。
『魅力ある湖西市をこどもたちへ』が市政のキャッチフレーズ。政策を考える
うえでのベースは毎年行っている市民意識調査。湖西市の住みにくいと思うと
ころは、1番が「交通が不便」、2番が「医療資源が少ない」、3番目が「街の賑
わいが少ない」。まずはそこを徹底的にやる。公共交通については、車が無く
ても行きたい場所にいつでも行ける状況を作りたい。遠鉄タクシーさんの協力
で実施しているデマンドタクシーを 1 年後にはさらに充実したものにするよう
に準備中。医療については、貴重な税金を使った湖西市民病院の経営を引き締
めつつ、より良い医療を行える方法を院長と共に模索中。街の賑わいについて
は、湖西市は製造業の街、豊田佐吉翁が生まれたトヨタグループ発祥の地であ
る。トヨタバッテリーも誘致されて、湖西市の知名度が上がってきた。また、
新居の関所の周りは最近若い人の出店が増えている。これは地域の方や市議会
議員さんたちが空き家マップを作ってくれたことが発端。昔からある老舗も頑
張っていて、いい雰囲気になっている。そういう流れを鷲津駅前や新所原駅前
にも広げたい。街を賑やかにするには観光も大事で、浜名湖観光の課題はホテ
ルのバラエティが少ないこと。富裕層に売り込めるような高価格帯のホテルの
誘致をしている。また、登山客が増えている湖西連峰は、樹木や登山道をしっ
かり保全。2 ヶ所ある登山道入り口の周りにカフェやショップを計画中。
老朽化に伴い湖西市役所の立替を予定。武蔵野市の武蔵野プレイスのような
、図書館機能プラス多種多様な若者が集まることのできる魅力的な複合施設を
目指したい。
地域の未来をつくるのは教育。AIを使った学習教材でこども一人一人に応
じた個別最適化の教育を導入すると同時に、自然の中で自分たちで遊びを考え
る体験型の教育も増やしていく。
市長になってマネジメントの悩みがわかるようになった。豊田章男会長が言
われたことだが、肩書で仕事をするのではなく役割だということ。部長も新人
も、役割が違うだけで立場はフラット。そこは大切にしていきたいと思う。ま
だまだ未熟だがご指導いただければと思う。