「AI(人工知能)の現状と共存への道」
講師 静岡県立大学 経営情報学部 学部長 六井 淳 氏
【講演概要】
1956年のダートマス会議で初めて人工知能(Artificial Intelligence:AI)
という言葉が誕生。人の知能との最大の違いは入力。AIはあらゆる環境情
報を入力として用い、確率的に高いもの、これを尤度(ゆうど)と言うが、
もっともらしさが一番のものを提示するだけ。正しいかどうかは関係ない。
人間の「考える」という行為とは違う。これがAIの正体。AIを経営に活用
する場合は、確率的な指標で成功率の高い戦略を導くだけであり、必ずし
も成功するわけではない。解答はあくまでも局所的最適解で、人の判断の
参考とするだけが望ましいあり方。
2012年からAIとともに世の中は急加速。2030年以降、労働人口の減少を
外国人とAIで補う時代へ。AIの導入で労働生産性は2035年に40%向上する
が、テレワークとAIによる自動翻訳機能の充実で海外移住障壁がなくなり、
若年労働者の海外流出が止まらなくなると予想される。2030年以降は仮想
通貨経済圏と新たな経済圏が誕生する可能性がある。若者が安心して生活
できる国を急いで作る必要がある。AIによる予測・管理・制御技術がより
重要になる。2060年に日本人の平均寿命は90歳を超え、2000年以降に誕
生した子供の平均寿命は100歳を超える。現在の10代の日本人が30代にな
る頃には、多くの労働をAIが担う社会になる。
人間の知性をAIが超えるのは2030年代、シンギュラリティ(技術的特異
点)が起こるのが2040年代半ばと言われる。量子計算機の登場に伴い、A
SI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)が生まれると言われる。A
SIに何を許し、何を許さないかは人が決める必要がある。現在は、それが
決められずに開発だけが先行している。
AIとは知識の外注。インターネット検索の35%はウソ。AIは確率のオバケ
で、確率的に高いもっともらしいものが出る。ホモサピエンスの最大の発明
は「言語」。人間は言語というシンボル処理を獲得した。AIは肥大化したシン
ボル処理の一つ。知能という意味でのシンギュラリティやASIはないと断言で
きるが、シンボル処理という意味でのシンギュラリティは確実に起こる。自
分で考えるという行為をやめ、言語処理をやめる時代がくる。肥大化するシ
ンボル処理こそがASI。確率的最適解を社会全体が真実と勘違いする世界は、
手塚治虫が『メトロポリス』で描いたAIが教祖になる世界。私は湯川秀樹博
士の「真実はいつも少数派」という言葉を大事にしている。確率処理で多数
派になるAIは、その全く逆。AIを参考にするのはよいが、人間が自分で考え
ることをやめた瞬間に大変な事態が起こる。
赤い色で書かれた「青」という文字を出し、これは何かと聞くと、感覚的
には赤であるにもかかわらず、5歳以上の人間は全員が「青」と言う。それ
は教育の成果。「感覚の一人称化」と言う。A=BはB=A、数学の交換法則。
物事が等価であるということを共有するのは人間だけ。人と動物の違いは、
相手のことを自分のこととして考えられるかどうか。人はAIに共感している
だけで、AIが人間化しているのではない。共感は人間が持つ唯一の能力であ
る。
2024年10月25日(火)21世紀倶楽部月例セミナー
「新型コロナ対応を踏まえた 静岡県のこれからの感染症対策」
講師 静岡県 健康福祉部 感染症管理センター センター長 後藤 幹生 氏
【講演概要】
2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症は、2023年3月までに
全世界で6億人以上が感染し700万人が死亡。日本の累積死亡者数は1万人
あたり6人で、世界の中では低い。米英は33人。日本のワクチン接種回数
は1人あたり約3回で最も多く、欧米等は2~2.5回。
静岡県の感染者1000人あたりの死亡者数は下がってきており、ワクチン
接種率の高まり、飲み薬の承認、重症化率が低いオミクロン株の流行が理
由と考えられる。県別の死亡者数は、静岡県は少ない方から5番目、感染者
数は少ない方から18番目。今年3月までに県内の65歳以上の高齢者の94%が
2回以上ワクチンを接種。全年代でも82%以上が2回以上接種。このことと、
内服抗ウイルス薬の投与率の高さが重症化や死亡者を減らした大きな要因
と考えられる。
献血した人の残りの血液を使った抗体の全国調査によると、2024年3月の
時点で若い人は既に1回以上コロナにかかった人が多いことがわかり、普通
の風邪になりつつある。しかし60代ではかかった人は5~6割。高齢者は重
症化もしやすいので、まだ注意が必要。
県ではコロナ禍の経験を踏まえて、次への対策を準備。平時も医療機関
や各関係団体との連携を推進したい。危機発生初動時のリスクコミュニケー
ションで重要なことは、直ちに共感を表現すること、リスクをシンプルに
説明すること、リスクを減らし安全を保つ行動を促すこと、危機に対応し
た取り組みと成果・今後の対応を説明して組織の信頼性を確立すること、
である。
世界の流行感染症の3分の1が鳥インフルエンザ関係。アメリカでは乳牛
から人への鳥インフルエンザ感染事例が増加。どんな感染症が次にやって
きても、感染症の3つの成立要素をしっかり考えて行動してほしい。「感染
源」、それをもらってしまう「感染宿主」、その間を結ぶ「感染経路」の3つ。
病原体を増やさないようにし、清潔な環境を整備することによって感染源
を減らす。ワクチン接種や免疫力を高めるケアなどによる宿主の抵抗力の
強化。そして、症状の強い時は人と会わず、手洗い、咳エチケットなどで
感染経路を断つことが重要。
国は約10年ぶりに新型インフルエンザ等対策政府行動計画を大幅改定。
そのポイントは、平時の準備、対策項目の拡充、幅広い感染症に対応し柔
軟に対策を切り替えること、DXの推進、実効性確保の取り組みである。静
岡県感染症管理センターは三島市にあり、感染症情報基盤の構築、感染症
対応人材の養成、感染症災害時の指令塔という3つの役割を担っている。
本県が人口あたりのコロナ死亡者を低く抑えることができたのは、皆様
の感染対策とワクチン接種の協力、医療機関のご尽力のおかげと感謝。コ
ロナは若い人にとっては風邪に近づいているが、高齢の方や病気を持つ方
は重症化する場合があるので、定期的なワクチン接種と、発症したら速や
かな受診、抗ウイルス薬の服用が大事。県は独自の注意報・警報を発令し、
メリハリのある感染対策の協力と適正受診の呼びかけを継続中。現在県で
は次の感染症対策の行動計画を作っているので、ご意見をお願いしたい。
県のホームページで「静岡県 コロナ 記録」で検索すると、静岡県の新
型コロナ対応の記録を見ることができる。ぜひご参考に。