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イベント関連:月例セミナー

日時:2024年4月 2日 14:05 投稿者:pt21c

現代に活かす忍術
講師 三重大学人文学部教授 山田 雄司 氏
【講演概要】
 忍者(しのびのもの)といえば黒装束で手裏剣を投げる印象ばか
りが先行し、2012年まで歴史学の観点から専門的な研究は行われ
てこなかった。しかし忍者は全国に存在し、特に伊賀(三重県)と
甲賀(滋賀県)が有名。この地域には秘密通路のある忍者屋敷のよ
うな家が現在も残っており、多くの忍術書が伝えられている。
 『万川集海』という忍術書には「忍術を使う時に心掛けを間違
えてはならない」と最初に書かれている。そして「天地を創るほ
ど大きなことを成し遂げても、優れた忍者は名前も残さず誇るこ
ともない」とある。忍者は日々地道に敵を観察し、大きな事が起
きる前に察知した情報を主君に伝えることが重要な任務なのだ。
 「忍」という字には「我慢する」と「密かに物事をする」の二
つの意味がある。刃を心臓に突きつけられるような危機的状況に
も動じない不動心が大事。自分をいかに表現するかが重要視され
る昨今とは全く違う価値観だが、私は「日本を創り上げてこられ
たのは、忍の精神があったからこそ」と思っている。
 忍者にふさわしい人とは、第一に自分の頭で考え行動する知恵
のある人。第二に記憶力の良い人。第三にコミュニケーション能
力に優れた人とある。忍者は多くの人と仲良くなり、さまざまな
情報を聞き出すことが必要。そのために必要な要素として「心身
健康」はもちろん、争いをするのではなく柔和な人、各地の情報
を数多く持っている人、文才がある人、諸芸に通じ時間を埋める
ことができる人などと書かれている。甲賀流14代で「最後の忍者」
と呼ばれる藤田西湖は新聞紙を丸めて吹くと、尺八と同じような
音を出したと言われる。
 さらに忍術に最も大事なのが「五間」とある。江戸時代中期の
兵法家である近松茂矩は『甲賀忍之伝未来記』に「奇術のような
事(姿を消したり池を渡ったり)は忍術の末端のことであり、本来
の忍術は五間を磨かなくてはならない」と書いている。
 松本藩の忍び芥川家に伝わった『甲賀隠術極秘』にも忍術は非
常に難しい道であり、この道に入ったら「短気、大酒、色欲を慎
み、喧嘩、口論、我儘も禁じる」とある。そして「読書によりさ
まざまな分野を学ぶこと」「山野を歩き五感を研ぎ澄ませること」
「事が起こる前に察知する能力を磨くこと」の大切さを伝えてい
る。
 この他、忍術書には、相手を褒めて気分をやわらげてから本筋
を引き出すコミュニケーション術や心を閉ざしている人の心を開
かせるには自分が正直であること。相手の様子を細かく察知し臨
機応変に対応すること。相手の立場で考えること。疑問が無くな
るまで洞察すること。仲間のネットワークを作ることなど、現代
人の仕事にも役立つ内容が紹介されている。
 また「酒・色・欲は自分の本心を奪ってしまう敵。自分自身を
厳しく律しなくてはならない」「喜怒哀楽愛悪欲は誰もが持つ人
間の感情。まずは自分自身を知ることが最も大事」などの記述も
私たちの生き方のヒントとして活かせるのではないだろうか。


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