講師:日本銀行静岡支店長 野見山 浩平 氏 演題:静岡県経済の現状と展望 【講演概要】 わが国の実質GDPはコロナ禍で落ち込む以前の水準に近づいているが、欧米に比べて戻 りが弱いのは社会活動の自粛制限が強く個人消費活動が弱いことが原因。中高年層の消 費活動が積極的になると本格的に消費が動き出すだろう。 ものづくりではデジタル関連の輸出の伸びが著しい。この先は半導体などの供給制約 と感染症の影響が徐々に和らぐもとで回復していく見通しであるが、それ以外にも米国 の利上げ、ウクライナ情勢の影響などが回復を脅かす恐れもある。 欧米ではインフレが進み金融引き締めに転換しているが、比べて日本の物価上昇はま だ低水準。海外発のインフレの悪影響を抑えるためにも現行の金融緩和政策を維持して いく。 静岡県経済をみると個人消費ではコロナの影響を受けた巣ごもり消費が顕著。ものづ くりに関しては、半導体などの供給制約が長引いていることから生産や輸出の低空飛行 が続いている。こうした中、静岡県経済が直面する課題を考えてみる。 ① 【サプライチェーン問題への対応】突然部品調達ができなくなるリスク回避のため 在庫の持ち方を工夫したり、調達ルートを複数確保したり、部品を自社製造へ切り替え たりなど。②【対面型サービス消費の建て直し】例えば多人数の飲食や団体旅行などの サービスを個人向けビジネスに転換するなど。③【価格戦略】コストアップが広がる中、 日本企業の「よい品をより安く」というビジネスモデルは見直しの時期を迎えているの ではないか。④【膨らんだ債務返済と事業の見直し】これからゼロゼロ融資の返済期を 迎える中で企業にはリストラの動きがみられる。 また今後、大企業主導でバリューチェーンの「脱炭素」に向けた移行が進んでいくだ ろう。しかし中小企業にとって一足飛びに転換するのは大変難しいため、まずは省エネ から始める移行期間(トランジション)を持つほうが現実的だ。こうした考えは国際的 な議論では「脱炭素に背を向けている」と誤解されることもある。日本は脱炭素の国際 的ルールを作る議論に積極的に参加し、国益を念頭に置いて直接交渉していくことが大 切だと思う。そして中小企業は専門家や行政、エネルギー会社等と連携して答えを探し ていくことが望まれる。 歴史を振り返れば世界的な経済ショックはこれまでに何度もあった。しかしバブル崩 壊後の日本は、すくんでしまい未来への投資を止めてしまう傾向が強かったように思う。 結果、デジタル化など海外に遅れを取ってしまった。今、経済成長のエンジンは決して 止まったわけではなく日本経済には十分なおカネがある。これを有効に活用し経済を回 していくことが重要であると改めて強調したい。
2022年3月25日(金)21 世紀倶楽部 月例セミナー
講師:日本銀行静岡支店長 野見山 浩平 氏
演題:静岡県経済の現状と展望
【講演概要】
わが国の実質GDPはコロナ禍で落ち込む以前の水準に近づいているが、欧米に比べて戻
りが弱いのは社会活動の自粛制限が強く個人消費活動が弱いことが原因。中高年層の消
費活動が積極的になると本格的に消費が動き出すだろう。
ものづくりではデジタル関連の輸出の伸びが著しい。この先は半導体などの供給制約
と感染症の影響が徐々に和らぐもとで回復していく見通しであるが、それ以外にも米国
の利上げ、ウクライナ情勢の影響などが回復を脅かす恐れもある。
欧米ではインフレが進み金融引き締めに転換しているが、比べて日本の物価上昇はま
だ低水準。海外発のインフレの悪影響を抑えるためにも現行の金融緩和政策を維持して
いく。
静岡県経済をみると個人消費ではコロナの影響を受けた巣ごもり消費が顕著。ものづ
くりに関しては、半導体などの供給制約が長引いていることから生産や輸出の低空飛行
が続いている。こうした中、静岡県経済が直面する課題を考えてみる。
① 【サプライチェーン問題への対応】突然部品調達ができなくなるリスク回避のため
在庫の持ち方を工夫したり、調達ルートを複数確保したり、部品を自社製造へ切り替え
たりなど。②【対面型サービス消費の建て直し】例えば多人数の飲食や団体旅行などの
サービスを個人向けビジネスに転換するなど。③【価格戦略】コストアップが広がる中、
日本企業の「よい品をより安く」というビジネスモデルは見直しの時期を迎えているの
ではないか。④【膨らんだ債務返済と事業の見直し】これからゼロゼロ融資の返済期を
迎える中で企業にはリストラの動きがみられる。
また今後、大企業主導でバリューチェーンの「脱炭素」に向けた移行が進んでいくだ
ろう。しかし中小企業にとって一足飛びに転換するのは大変難しいため、まずは省エネ
から始める移行期間(トランジション)を持つほうが現実的だ。こうした考えは国際的
な議論では「脱炭素に背を向けている」と誤解されることもある。日本は脱炭素の国際
的ルールを作る議論に積極的に参加し、国益を念頭に置いて直接交渉していくことが大
切だと思う。そして中小企業は専門家や行政、エネルギー会社等と連携して答えを探し
ていくことが望まれる。
歴史を振り返れば世界的な経済ショックはこれまでに何度もあった。しかしバブル崩
壊後の日本は、すくんでしまい未来への投資を止めてしまう傾向が強かったように思う。
結果、デジタル化など海外に遅れを取ってしまった。今、経済成長のエンジンは決して
止まったわけではなく日本経済には十分なおカネがある。これを有効に活用し経済を回
していくことが重要であると改めて強調したい。