日時:2023年5月30日 14:32 投稿者:pt21c

現場から見たこれからの魚
講師 サスエ前田魚店
五代目店主 前田 尚毅 氏
【講演概要】
クラス一問題児だった幼少期の自分がそのまま大人になり、
家の魚屋を手伝っていた20代前半、地元の割烹屋さんの親方
が自分を叱り、教え育ててくれたことが私の分岐点となった。
魚の目利きも成長し、自分が選ぶ魚を心底から喜んでもらい
たいと思えるようになったとき、親方の不治の病が発覚。こ
のとき「次世代の料理人に全力を尽くしていく」と親方に約
束した。
マーケティング世界一といわれる築地市場を訪ねたとき、
桁違いの魚数に驚いたが魅力を感じる魚は無かった。焼津で
扱う魚について話してみると、築地でこうした専門的な会話
をする人はいないと言われた。その場で、銀座で寿司店を営
む店主と出会い、ご縁がスタート。当初閑古鳥だった店がミ
シュランで三ツ星店になった。
静岡市にある天ぷら店「成生(なるせ)」は、開店した17年
前から店主の志村氏と「静岡に国内外から客を呼ぶ」を合い
言葉に人生を注ぎ込んできた。お客様が帰られた後、魚を持
ち込み「この魚でどのような天ぷらを揚げるか」連日試行錯
誤。3年ほど経ったころから次第に県外のお客様が来てくれる
ようになり、今では日本一予約の取れない店と言われている。
食だけを目的に静岡駅へ降り立ってくれるのは快挙といって
いい。私の狙いは一つの市に全国で勝負できる店を三軒現実
化すること。それが宿泊観光に繋がると考えている。
地元の良さを見直した若手の飲食店主たちも「勝負したい」
と集まってくれるようになった。5月2日には「成生」の一番
弟子(サスエの元社員)が焼津に「天ぷら なかむら」をオープ
ンした。その場所こそ、私を育ててくれた恩師(親方)の店だ。
現在全国的に勝負できる店が6店舗できたが、なかなか予約
を取ることが難しい。そこで、予約なく多くの方に気軽に立ち
寄っていただけるレストランを増やそうと、7年前から地元漁
師さんと「雑魚の評価を上げていこう」とさまざま取り組み中。
イワシを泳がせて港まで持ってくるのは至難の業だが、今年2
匹成功することができた。これが来年10匹になったらすごいこ
と。思い切り小さなことでも、不可能を可能にしていくのがや
りがい。漁師さんから自分、そして料理人へと「食のバトンリ
レー」によって魚のポテンシャルを上げることが大きな力にな
ると信じている。
  徳川家康は白アマダイをすり身にして揚げた天ぷらを食べ
ていたと伝わる。自分が幼いころ食していたタコは焼津で絶滅
してしまったが、450年前の白アマダイは今も食べることがで
きる。地元にある美味しい魚を後世に残すため、今後も自然と
向き合いながら周りの仲間たちとチャレンジしていきたい。魚
屋業30年、今が最高に楽しい。

日時:2023年5月 2日 11:17 投稿者:pt21c

暴れ天竜を地域全体で制する
~金原明善翁の夢のつづき~
講師 国土交通省中部地方整備局浜松河川国道事務所
事務所長 名久井 孝史 氏
【講演概要】
天竜川は山林の多い急峻な地形を通るため土砂が出やすく、
昔からたびたび氾濫を繰り返してきた。長年の治水事業によ
り洪水被害は少なくなったとはいえ、近年は気候変動の影響
で全国各地で想定外の洪水が頻発。今後の気象状況によって
は洪水発生頻度が約4倍になるとの予測もある。
現在天竜川の基本的治水対策は「川中の掘削による流下能
力アップ」「護岸整備」「管理施設の維持修繕」のほか、既
存ダムに洪水調節機能を整備する機能再編事業など。しかし
激甚化する水害に堤防だけの対策は不可能なことは明らか。
そのため流域全体での治水対策を進めている(詳細後述)。
こうした国事業の思想根源には金原明善の影響を大きく受
けている。幕末に誕生した明善は40代に全財産を投じて天竜
川の治水対策をスタートし、技術者養成の水利学校を設立し
た。植林事業に着手した50代には金融業で事業資金を構築。
財テク知識を活かし、増やした資産を植林事業へ投資し続け
た。
開通したばかりの東海道線を木材運搬に利用したり、枝打
ちしやすいオリジナル鎌を開発したり、植林による投資の呼
びかけをするなど、時流をつかみながら技術開発し、皆が幸
せになる経営戦略を進めた実績は実に見事。
3年前から国が流域治水対策の取り組みをスタートしたの
は「流域全体を見て治水すべき」という明善の考え方に注目
したことが大きい。以来遠州流域の治水協議会を設立
し、あらゆる関係者が一体となって流域治水を進めようと取
り組んでいる。
具体的プロジェクトは、公共施設等を活用した雨水貯留施
設を整備したり、危険エリアの建物を移転促進したり。さら
に住民一人ひとりが自分の防災行動計画を立てる取り組みも
推進。各企業で水害対応の事業継続計画(BCP)を立てるこ
とで被害を抑えることができた実例も報告されている。
昨年9月の大雨では最も危険度の高い「緊急安全確保」が
5回も発令されていたにも関わらず、ほとんどの人が避難し
ていなかった。今後、警報の分かり難さの課題改善を図って
いくが、皆さんは命を守るために「躊躇なく逃げる」ことを
念頭においてほしい。
危険なだけでなく河川には楽しい水辺空間があることもポ
イント。スポーツや記念イベント、最近ではドローンの国家
試験場などさまざまに活用されている。地域のにぎわいづく
りの社会実験として要望に応えていくので積極的に利用して
ほしい。


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