「原理原則に立ち返った、常識破りの挑戦〜究極の開発手法〜」 講師 静岡大学客員准教授 辻井栄一郎 氏
【講演概要】 物造り(開発)の共通した悩み。クレームが出ると再発防止に取り組むが、また同じ問題が起きる。それは基本がわかっていないから。若い頃は失敗をした。大きなピストンを設計するために先輩の書いた図面をコピーして数字を書き換えたら、失敗。理由は、常識と真実は違うから。先輩の図面は「常識」。数字を書き換えただけでは常識をコピーするだけで、「真実」を理解していない。ニュートン力学をベースに物事を考え抜いて作るようになったら失敗しなくなった。 止まっているものは止まっており、動いているものは動き続ける「慣性の法則」。質量に加速度をかけると力が発生する「運動方程式、F=ma」。アクション・リアクションの「作用反作用」。これがニュートン力学のベース。この3つを考え抜くだけで物事はうまくいく。それを考えたアイザック・ニュートンをリスペクトし、「アイザックコンセプト」を提唱。ニュートン力学を理解し、重さや長さなどの絶対物理量感を持ち、それをもとに考えることが重要だ。 アイザックコンセプトのツールはエクセルと機械工学便覧。私は基本この2つであらゆるものを設計してきた。CAEやMBDやAIは便利だが使い方を間違えると無駄なことをする。Aに対してA'やA"を造ることは得意だがBは造れない。データに無いものを出せるのは人。 アイザックコンセプトによる開発を紹介。まず商品開発:エンジン。船外機の排ガス規制をクリアするために2サイクルを4サイクルにすると、コストと大きさが課題だった。運動方程式で考え直し、常識破りのオフセットシリンダーを開発した。次に新技術開発:車体。LMW:Leaning Multi Wheel、タイヤがたくさんあるモーターサイクル。タイヤが多いと安定するが、気持ちよく曲がれない。そこで左右を連結してシーソーのように作用反作用で動き、固定すれば自立できる常識破りのバイクが誕生した。3つ目は研究開発:電子制御。オートバイは運動性と安定性という相反するものの両立が永遠のテーマ。二輪の運動方程式で前輪の接点、後輪の接地点、総重心位置の3つによる「重心三角形」を解明。3頂点をコントロールできる構造AMCES(アムセス)を構築し「常識からの解放」をコンセプトとするバイク「モトロイド」を生み出した。 ニュートン力学は開発コストを低減し、開発品質を向上。新しいアイテムや機構を開発でき、クレームやリコールを減少。さらに経済、人間関係、芸術などあらゆることに通じる究極の開発手法である。開発心得はまず、物事に100点満点はないということ。世の中は全てトレードオフ。いかに両立できる所を探し出すか。そして、顧客(上司)の想像を超えろ、上司に内緒で仕事をしろ、 ということ。人知れず行うと邪魔されず、納得いくまでできる。途中でダメと分かればやめればいい。案ずるより産むが易し。物理量を体感して失敗を恐れずやること。常に何事に対してもBe Gentleman!! 理にかなったことを客観的に判断することが大事。我々はニュートン力学の呪縛からは絶対に逃れられないのだからそれを真摯に受け止める。 今の日本にはムーンショット的な壮大なテーマが必要。六脚ロボットやメジャーリーガー養成バット等も現在開発中。こんなものができたら未来が開けると思える夢に取り組んでいる。
2024年11月27日(火)21世紀倶楽部月例セミナー
「原理原則に立ち返った、常識破りの挑戦〜究極の開発手法〜」
講師 静岡大学客員准教授 辻井栄一郎 氏
【講演概要】
物造り(開発)の共通した悩み。クレームが出ると再発防止に取り組むが、また同じ問題が起きる。それは基本がわかっていないから。若い頃は失敗をした。大きなピストンを設計するために先輩の書いた図面をコピーして数字を書き換えたら、失敗。理由は、常識と真実は違うから。先輩の図面は「常識」。数字を書き換えただけでは常識をコピーするだけで、「真実」を理解していない。ニュートン力学をベースに物事を考え抜いて作るようになったら失敗しなくなった。
止まっているものは止まっており、動いているものは動き続ける「慣性の法則」。質量に加速度をかけると力が発生する「運動方程式、F=ma」。アクション・リアクションの「作用反作用」。これがニュートン力学のベース。この3つを考え抜くだけで物事はうまくいく。それを考えたアイザック・ニュートンをリスペクトし、「アイザックコンセプト」を提唱。ニュートン力学を理解し、重さや長さなどの絶対物理量感を持ち、それをもとに考えることが重要だ。
アイザックコンセプトのツールはエクセルと機械工学便覧。私は基本この2つであらゆるものを設計してきた。CAEやMBDやAIは便利だが使い方を間違えると無駄なことをする。Aに対してA'やA"を造ることは得意だがBは造れない。データに無いものを出せるのは人。
アイザックコンセプトによる開発を紹介。まず商品開発:エンジン。船外機の排ガス規制をクリアするために2サイクルを4サイクルにすると、コストと大きさが課題だった。運動方程式で考え直し、常識破りのオフセットシリンダーを開発した。次に新技術開発:車体。LMW:Leaning Multi Wheel、タイヤがたくさんあるモーターサイクル。タイヤが多いと安定するが、気持ちよく曲がれない。そこで左右を連結してシーソーのように作用反作用で動き、固定すれば自立できる常識破りのバイクが誕生した。3つ目は研究開発:電子制御。オートバイは運動性と安定性という相反するものの両立が永遠のテーマ。二輪の運動方程式で前輪の接点、後輪の接地点、総重心位置の3つによる「重心三角形」を解明。3頂点をコントロールできる構造AMCES(アムセス)を構築し「常識からの解放」をコンセプトとするバイク「モトロイド」を生み出した。
ニュートン力学は開発コストを低減し、開発品質を向上。新しいアイテムや機構を開発でき、クレームやリコールを減少。さらに経済、人間関係、芸術などあらゆることに通じる究極の開発手法である。開発心得はまず、物事に100点満点はないということ。世の中は全てトレードオフ。いかに両立できる所を探し出すか。そして、顧客(上司)の想像を超えろ、上司に内緒で仕事をしろ、
ということ。人知れず行うと邪魔されず、納得いくまでできる。途中でダメと分かればやめればいい。案ずるより産むが易し。物理量を体感して失敗を恐れずやること。常に何事に対してもBe Gentleman!! 理にかなったことを客観的に判断することが大事。我々はニュートン力学の呪縛からは絶対に逃れられないのだからそれを真摯に受け止める。
今の日本にはムーンショット的な壮大なテーマが必要。六脚ロボットやメジャーリーガー養成バット等も現在開発中。こんなものができたら未来が開けると思える夢に取り組んでいる。