「南海トラフ地震臨時情報」初の発表で見えてきたこと 講師 TBSテレビ報道局 解説委員 福島 隆史 氏
【講演概要】 8月8日当日をふり返る。「南海トラフ地震臨時情報」の想定される発 表の流れは、日向灘の地震のような現象の発生から5~30分以内に気象 庁が巨大地震に結びつくかどうかの調査を始めたという「調査中」の 臨時情報を発表。その後地震研究者6人による評価検討会が緊急招集さ れ、評価をまとめる。早ければ2時間以内に評価結果が出る。我々JN N系列の放送局は、調査中と評価結果が出るタイミングで特別番組を 組むと決めて対応を準備しており、4月20日には訓練も実施していた。 8月8日は訓練の想定とほぼ同じとなり、その成果があった。 南海トラフ地震関連の情報体系は2017年秋にもとになる仕組みがで き、2019年5月に臨時情報と解説情報の2つを出すことが決まったが、 今回初めて出された。それ以前の動きについては静岡新聞社刊の『沈 黙の駿河湾』に詳しく書かれているので、興味ある方はご一読を。 臨時情報のキーワードは「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」 「調査終了」の4つ。発表基準は震度や津波の有無ではなく、地震が 南海トラフ地震の想定震源域で起き、地震の規模がマグニチュード (以下M)6.8以上である、という2つの条件のみ。モーメントマグニチ ュード(以下Mw)という基準で地震の規模を計算した結果7.0以上と評 価したため、今回「巨大地震注意」が発表された。東京大学の災害情 報研究者の緊急アンケートによると、4人中3人が何らかの地震が起こ ると受けとめ、これが地震予知情報と思われた可能性がある。残念な がら地震予知は確立されていない。臨時情報は、最初の地震から1週間 以内に、南海トラフ地震の想定震源域で、最初の地震よりは巨大な地 震が起きる確率が少し上がっていることを示す情報。"1週間以内"に科 学的根拠はなく、社会が受け入れられる期間としての1週間である。 「巨大地震警戒」が出るのは、先に起きた地震がMw8以上と評価され た場合。地震発生後の避難では間に合わない沿岸部などの住民は、こ の時点で避難が呼びかけられる。高齢者等事前避難対象地域もあり、 シビアな状況。南海トラフ地震評価検討会の平田直会長は「次の巨大 地震がどこでいつ起きるかは言えない。想定震源域全体で注意してほ しい」と語る。 臨時情報が出るもう一つのパターンは「通常と異なるゆっくりすべ りが発生した可能性」。これは地下の「ひずみ計」がキャッチし、地 上では揺れを感じない。そんな時どうするか。国が出すメッセージは 「巨大地震注意」か「巨大地震警戒」か「調査終了」のみ。このゴー ルに着目して、日頃から備えをすることだ。それぞれが出た場合にど う対応をするか、今の段階で決めることができる。その際に顧客や社 員に対してもメッセージを出すことは有効である。 13年前のM9.0の東日本大震災。その2日前に同じ震源域でM7.3の地震 が起きていたが、このあと巨大地震が起きるかもしれないという警告 は当時なかった。国としてはこの事実を見た以上、南海トラフエリア でM7の地震が起きて何も注意喚起をしないという選択肢はない。注意 呼びかけの妥当性にはいろいろな議論があると思うが、確率が低いか ら何もしなくていいというのは違う。臨時情報の受けとめをこの機会 に考えていただけたらと思う。
2024年8月22日(水)21世紀倶楽部月例セミナー
「南海トラフ地震臨時情報」初の発表で見えてきたこと
講師 TBSテレビ報道局 解説委員 福島 隆史 氏
【講演概要】
8月8日当日をふり返る。「南海トラフ地震臨時情報」の想定される発
表の流れは、日向灘の地震のような現象の発生から5~30分以内に気象
庁が巨大地震に結びつくかどうかの調査を始めたという「調査中」の
臨時情報を発表。その後地震研究者6人による評価検討会が緊急招集さ
れ、評価をまとめる。早ければ2時間以内に評価結果が出る。我々JN
N系列の放送局は、調査中と評価結果が出るタイミングで特別番組を
組むと決めて対応を準備しており、4月20日には訓練も実施していた。
8月8日は訓練の想定とほぼ同じとなり、その成果があった。
南海トラフ地震関連の情報体系は2017年秋にもとになる仕組みがで
き、2019年5月に臨時情報と解説情報の2つを出すことが決まったが、
今回初めて出された。それ以前の動きについては静岡新聞社刊の『沈
黙の駿河湾』に詳しく書かれているので、興味ある方はご一読を。
臨時情報のキーワードは「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」
「調査終了」の4つ。発表基準は震度や津波の有無ではなく、地震が
南海トラフ地震の想定震源域で起き、地震の規模がマグニチュード
(以下M)6.8以上である、という2つの条件のみ。モーメントマグニチ
ュード(以下Mw)という基準で地震の規模を計算した結果7.0以上と評
価したため、今回「巨大地震注意」が発表された。東京大学の災害情
報研究者の緊急アンケートによると、4人中3人が何らかの地震が起こ
ると受けとめ、これが地震予知情報と思われた可能性がある。残念な
がら地震予知は確立されていない。臨時情報は、最初の地震から1週間
以内に、南海トラフ地震の想定震源域で、最初の地震よりは巨大な地
震が起きる確率が少し上がっていることを示す情報。"1週間以内"に科
学的根拠はなく、社会が受け入れられる期間としての1週間である。
「巨大地震警戒」が出るのは、先に起きた地震がMw8以上と評価され
た場合。地震発生後の避難では間に合わない沿岸部などの住民は、こ
の時点で避難が呼びかけられる。高齢者等事前避難対象地域もあり、
シビアな状況。南海トラフ地震評価検討会の平田直会長は「次の巨大
地震がどこでいつ起きるかは言えない。想定震源域全体で注意してほ
しい」と語る。
臨時情報が出るもう一つのパターンは「通常と異なるゆっくりすべ
りが発生した可能性」。これは地下の「ひずみ計」がキャッチし、地
上では揺れを感じない。そんな時どうするか。国が出すメッセージは
「巨大地震注意」か「巨大地震警戒」か「調査終了」のみ。このゴー
ルに着目して、日頃から備えをすることだ。それぞれが出た場合にど
う対応をするか、今の段階で決めることができる。その際に顧客や社
員に対してもメッセージを出すことは有効である。
13年前のM9.0の東日本大震災。その2日前に同じ震源域でM7.3の地震
が起きていたが、このあと巨大地震が起きるかもしれないという警告
は当時なかった。国としてはこの事実を見た以上、南海トラフエリア
でM7の地震が起きて何も注意喚起をしないという選択肢はない。注意
呼びかけの妥当性にはいろいろな議論があると思うが、確率が低いか
ら何もしなくていいというのは違う。臨時情報の受けとめをこの機会
に考えていただけたらと思う。