ジュビロ磐田CRO山田大記氏 人を動かすリーダーシップ/ダウン症の息子と共に歩む
【講演概要】
●人を動かすリーダーシップ/サッカー界の特徴は、判断・評価を下すサイクルの短さ、個性豊かな選手のマネジメント、毎週結果を求められること、再現性が低いこと。そこで、リーダーに求められる素養は、思考の瞬発力、さまざまな選手に対する感情のマネジメント、言葉だけではない伝える力、ストレス・プレッシャーの中で余裕を持つことのできる精神力、「結果が全て」の外圧の中で自分たちの在り方を貫ける信念、だと考える。
具体的なエピソード。「ドイツでの挫折」ジュビロが初めてJ2に降格して半年後にドイツ・カールスルーエSCからオファー。最後のチャンスと考え移籍。出だしは好調だったが、その後2年は結果を出せず苦しむ。自分の自信、能力は全て日本の整えられた条件だから発揮できたと気づいた。自分の弱さ、脆さを知って、相手の痛みがわかり、寄り添えるようになる。その後、チームのメンバーと向き合う時も、自分から見えるその人の姿が、その人の全てではないと意識するようになった。完璧なリーダーはいらない。一貫性を持ち、自分のありのままを高めていくことがメンバーからの信頼につながると思い、キャプテンを務めてきた。
「現役最後のPK」ジュビロ磐田から契約満了の通告を受けた時はすごくショッキングで苛立ったが、夢をかなえるために一番大事なことは人のせいにしないことだと、常々講演などで子どもたちに話していた。だから自分の力が足りなかったのだと受け入れ、大好きなチームでやれる時間を感謝の気持ちで味わいたいと思った。引退が決まった後、ホームでの最終戦、負けたら降格が決まる試合の最終盤という極限の状態で、足を痛めたジャーメイン選手にPKのキッカーを頼まれた時も、ここで外して非難されても、誰かに責任を押し付けて終わるのだけはやめようとキッカーを務め、決めることができた。サッカー人生全般を通して思ったのは、在り方は選べるということ。成果を出すためには、自分がコントロールできるもの、プロセスや在り方を大切にするということが大事だと感じている。
●ダウン症の息子と共に歩む/2020年に生まれた長男はダウン症だった。それを聞いた直後は未来が閉ざされた気持ちになったが、「かわいい孫と出会わせてくれてありがとう」「みんなで育てていけばいいよ」という両親の言葉に支えられ、何よりかわいい息子との触れ合いに幸せを感じるし、本人がとても幸せに過ごしているので、ダウン症に対してネガティブなものは何も連想しなくなった。周りから差別や偏見を受けることも1回もなかったが、それは差別や偏見は「おかしい」と声を上げた先人たちのおかげ。自分もそういう思いを引き継いでいきたい。障がいを持つ人やマイノリティの人が生きやすい社会は、そうではない人も生きやすいはず。そのような思いから「Challenge to インクルーシブ in 浜松」というイベントに実行委員として関わっている。偏見は悪意からではなく無知から生まれると思う。スポーツを中心に時間、空間、体験を共有するこのイベントを通して、多くのことを感じ取ってほしい。多様化する社会にあって、誰もが自分らしく生きられる浜松を共に作っていきましょう。
2025年8月27日(水)21世紀倶楽部月例セミナー
南海トラフ巨大地震と富士山噴火を考える
講師 日本地震予知学会 会長 長尾年恭 氏
【講演概要】
2024年1月1日の能登半島地震は、明治以降に日本で起きた内陸の地震では最大だった。今後はこの地震で割れ残った能登半島東側の佐渡ヶ島付近や、日本海東縁部の地震空白域である秋田沖で地震が起きるかもしれない。一方、太平洋側では、東日本大震災の最大余震がまだ発生していない可能性がある。青森県沖、房総半島沖に歪が蓄積しており、ここで津波を伴う大地震が将来発生すると地震学者は考えている。また北海道沖についても破局的な地震が400~500年おきに起こることが、東日本大震災後にわかった。7月にはカムチャッカ半島沖で巨大地震が起きたし、数年以内にM8クラスのものが起きるかもしれない。さらに、もう一つ危惧される場所が福岡。2005年に福岡県西方沖地震を起こした警固(けご)断層が、博多駅辺りから内陸側の市街地で割れ残っている。大都市の直下ではこれが一番危ない。
そして南海トラフ巨大地震。昨年8月8日、史上初の南海トラフ臨時情報が発表された。日本書紀に684年の最初の記録があり、以後12回発生。記録を見ると大地震の40年ほど前から内陸で地震活動が盛んになっている。次の南海トラフ地震は、その最初の地震活動が1995年の阪神淡路大震災ではないかと考えられる。現在、仮説として2035年説、2038年説が公表されている。だが、古文書の記録のない7000年前から調べてみると、過去に4回、M9クラスの超巨大地震が起きていることがわかった。これをスーパーサイクル地震と呼ぶ。次はこれかもしれない。「南海トラフ巨大地震は来ますか?」と聞くのは「人は死にますか?」と聞くのと同じ。将来確実に発生する。そして津波、建物倒壊、火災が全て起きる。被害者も救助者も一緒。今のIT化された近代都市が初めて被災するので、どうなるかわからない。国の衰退、政府の財政破綻につながる。国難を回避するために産官学の総力結集が必要だ。
富士山は人間で言えば20歳くらいの若い活火山。実は東日本大震災の後に、噴火の危機があった。近い将来100%噴火する。噴火による火山灰は停電をもたらす。電気がなくなると何もできない。これが最も新しい都市型災害だ。また火山灰は航空機にも大きく影響する。
最も重要なことは耐震補強。家が壊れないと火事が起きない、命が助かる、被災後の暮らしに困らない。2000年の耐震基準を満たした日本家屋は、津波以外ではほとんど壊れない。
関東大震災から100年以上だが、関東大震災と安政の大地震の出火場所がほぼ同じ。実は、地下に東関東ガス田という巨大なメタンガスの貯留槽が広く分布している。
東海大学のベンチャーとして、「地下を『視る、診る、看る』」研究者をサポートするDuMA(地下気象研究所)を2011年に設立。毎週「地下天気図」というものを発行している。
電離層電子密度の異常という大地震の前兆現象が、GPS観測網の配備後に世界中で起きたM8以上のすべての地震で観測された。40分前くらいから起きるが、異常と判断し情報として出せるのは10~20分前くらい。これをなんとかしたい。このようなことや地下天気図、南関東ガス田のことなどを『巨大地震列島』という本に書いているので、こちらもお読みいただきたい。