日時:2025年6月 5日 07:58 投稿者:pt21c

新事業創出〜パラアスリートが使う軽量車いす開発の裏側〜
講師 橋本エンジニアリング株式会社 代表取締役社長 橋本裕司 氏

【講演概要】
 当社は世界最軽量車いすを作っている。汎用の3分の1の6.2kgという軽さで、グッドデザイン賞も受賞。この技術をもとにパラスポーツ用の車いすを開発し、現在、車いすテニスの田中愛美選手はじめ4名の選手と契約。2024年のパリ・パラリンピックでは全員が金メダルを獲得し、注目を集めた。昨年は浜松市スポーツ特別サポート賞を受賞。経済産業省のはばたく中小企業300社に認定。浜松の町工場がなぜこのような製品を作り出すことができたのか?
 現在は5つの事業を展開する多角化経営だが、2009年までは車、バイクの仕事のみ。転機はリーマンショック。リストラに協力してくれたスタッフを必ず呼び戻すことを誓って、「縁ある人を物心共に幸せに導く」という目的、「雇用を守り、20年後30年後も生き抜く」という目標を掲げ、前進した。日本の輸送機器製造業の状況は、EVショック、産業の空洞化、ピラミッド産業構造の崩壊、人口の減少、第四次産業革命による「不確実性の時代」。そこで生き抜くために、「少ない売り上げでも利益を生み出すしくみづくり」「高付加価値製品への技術開発」「海外進出」「新興国需要獲得」「ブランディング戦略」という5つの目標を立てた。
 目標の2番目の「高付加価値製品への技術開発~新素材への取り組み―EV時代の先駆け」について。電気自動車に必要な車体の軽量化は、素材が決め手。そこで「はままつ地域新素材事業化研究会」に参加して勉強。チタン事業化研究会で医療機器を開発するメディカルプロジェクトを組織。4社による医療機器開発製造組合HAMINGを立ち上げた。そして5番目の「ブランディング戦略。100%下請けからの脱出、メーカーになる!」について。若手社員による開発チームを発足し、専門家に開発顧問を依頼。0から1を生み出すのは難しいが、1を1.1にすれば発明。0.1を探せばいいと言われ、車いす業界の「軽量+スタイリッシュ+適正価格」に市場ニーズを発見。実用金属で最も軽いマグネシウム合金を使った車いすを作ろうとしたが、1社では苦戦。はままつ地域新素材事業化研究会にマグネシウム事業化研究会が発足したので、参加。協力メーカー11社、浜松市の補助金、コーディネーターのサポート、官学の支援を得て、ついに世界最軽量の車いすが完成した。すると、田中愛美選手から自分専用車両の開発依頼が来た。再びプロジェクトチームを組み、3年かけて競技用車いす完成。4名の契約選手が金メダルという快挙で、世界一の車いすメーカーとしてメディアにも大きく取り上げられた。
 その後、コロナショック、さらにトランプショック。そのような状況で、「なぜ新事業を起こせるのか?」と聞かれることが多い。その理由は、①目的、目標が明確である。なぜ新事業を新規開発する必要があるのかが、ぶれない。②行動する。チャンスは自ら掴みに行く。③成長産業への挑戦。常に市場の動向をチェック。④人の力を借りる。自分一人だけ、一社だけで不可能なことが、他の人の力を借りることによって可能になる。⑤補助金を最大限活用する。
 製造業の未来を切り拓くキーワードは「生成AI×DX」であると考え、力を入れている。今後も、豊かな社会づくり、豊かな浜松づくりに貢献していきたい。


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