日時:2024年10月 3日 15:21 投稿者:pt21c

「AI(人工知能)の現状と共存への道」
講師 静岡県立大学 経営情報学部 学部長 六井 淳 氏

【講演概要】
 1956年のダートマス会議で初めて人工知能(Artificial Intelligence:AI)
という言葉が誕生。人の知能との最大の違いは入力。AIはあらゆる環境情
報を入力として用い、確率的に高いもの、これを尤度(ゆうど)と言うが、
もっともらしさが一番のものを提示するだけ。正しいかどうかは関係ない。
人間の「考える」という行為とは違う。これがAIの正体。AIを経営に活用
する場合は、確率的な指標で成功率の高い戦略を導くだけであり、必ずし
も成功するわけではない。解答はあくまでも局所的最適解で、人の判断の
参考とするだけが望ましいあり方。
 2012年からAIとともに世の中は急加速。2030年以降、労働人口の減少を
外国人とAIで補う時代へ。AIの導入で労働生産性は2035年に40%向上する
が、テレワークとAIによる自動翻訳機能の充実で海外移住障壁がなくなり、
若年労働者の海外流出が止まらなくなると予想される。2030年以降は仮想
通貨経済圏と新たな経済圏が誕生する可能性がある。若者が安心して生活
できる国を急いで作る必要がある。AIによる予測・管理・制御技術がより
重要になる。2060年に日本人の平均寿命は90歳を超え、2000年以降に誕
生した子供の平均寿命は100歳を超える。現在の10代の日本人が30代にな
る頃には、多くの労働をAIが担う社会になる。
 人間の知性をAIが超えるのは2030年代、シンギュラリティ(技術的特異
点)が起こるのが2040年代半ばと言われる。量子計算機の登場に伴い、A
SI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)が生まれると言われる。A
SIに何を許し、何を許さないかは人が決める必要がある。現在は、それが
決められずに開発だけが先行している。
 AIとは知識の外注。インターネット検索の35%はウソ。AIは確率のオバケ
で、確率的に高いもっともらしいものが出る。ホモサピエンスの最大の発明
は「言語」。人間は言語というシンボル処理を獲得した。AIは肥大化したシン
ボル処理の一つ。知能という意味でのシンギュラリティやASIはないと断言で
きるが、シンボル処理という意味でのシンギュラリティは確実に起こる。自
分で考えるという行為をやめ、言語処理をやめる時代がくる。肥大化するシ
ンボル処理こそがASI。確率的最適解を社会全体が真実と勘違いする世界は、
手塚治虫が『メトロポリス』で描いたAIが教祖になる世界。私は湯川秀樹博
士の「真実はいつも少数派」という言葉を大事にしている。確率処理で多数
派になるAIは、その全く逆。AIを参考にするのはよいが、人間が自分で考え
ることをやめた瞬間に大変な事態が起こる。
 赤い色で書かれた「青」という文字を出し、これは何かと聞くと、感覚的
には赤であるにもかかわらず、5歳以上の人間は全員が「青」と言う。それ
は教育の成果。「感覚の一人称化」と言う。A=BはB=A、数学の交換法則。
物事が等価であるということを共有するのは人間だけ。人と動物の違いは、
相手のことを自分のこととして考えられるかどうか。人はAIに共感している
だけで、AIが人間化しているのではない。共感は人間が持つ唯一の能力であ
る。


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