日時:2022年8月26日 15:32 投稿者:pt21c

講師:第一生命経済研究所 熊野英生 氏
演題:脱炭素化に向けて、世界が動き出す
   ~日本の展望を考える~
【講演概要】
 ロシアのウクライナ侵攻で我が国が最も影響を受けているのは原油
価格の高騰だろう。欧州連合のロシア制裁が進む中、日本はロシアか
ら天然ガスを購入するサハリン計画が進んでいたこともあり、今後の
対応を深く考えなくてはならない。さらにCo2排出に対し課税する「
炭素国境税」によってロシアを困窮させたい欧米の意図もあり、カー
ボンプライシング(二酸化炭素排出量に応じて企業や家庭が金銭的な
コスト負担をする仕組み)が急速に進むことが予想される。課税メカ
ニズムが日本の産業に大きく影響してくる可能性があることを理解し
てほしい。
 我が国のCo2削減には発電と工場対策が重要になる。原発は3・11
以降日本でほとんど稼働していないが、エネルギーコストを下げるた
めには有効。しかし国民の原発稼働に対する反発もあり原発話題はタ
ブー視されたままの状態が続いている。このまま何も議論しないのは
不健全。しっかり議論したほうがいいだろう。
 そして今後カーボンプライシングの税収は再生エネルギー事業に回
されていくことが予想され新たなビジネスチャンスになる。再生エネ
ルギーは需要と供給のバランスコントロールが難しいため、LNG(液
化天然ガス)へのシフトも考えられる。この分野は日本の製造業で研
究が進んでいるので今後有望なのではないだろうか。
 もうひとつ極めて重要なのが自動車など輸送手段の電動化だ。炭素
国境税が促進されれば新たな次世代エコカー補助金など政府が関与し
ながらさまざまな制度設計が加速していくだろう。
 こうした中、ビジネスチャンスとして注目されるのがCo2を吸収さ
せる技術。大気中のCo2を化学物質で吸着させるDAC法や、石油・天然
ガスから水素やアンモニアを取り出すときに発生する高濃度Co2を吸
着させるCCS法などの研究が進んでいる。さらに農業を通した究極のエ
コ事業を実現できる可能性もある。不耕起農業を進めることで大地に
Co2を吸収させる研究も始まっている。
 このように2030年までに起こるとみられる経済転換はビジネスチャ
ンスの機会ではあるが、これまで収益を得ていた旧来産業がうまく転
換できるかが大きな課題になる。環境、社会、企業統治に悪影響のあ
る企業に投資を控える「Esg投資」が進めば負の遺産を増やしてしまう
ことも考えられる。
 現在のロシア制裁が我が国の産業に大きなインパクトを与え、今後
の経済転換によって新たな南北格差が生じてくることも十分理解し、
これからの産業活動に取り組んでいただきたい。


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